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2.1.3 研究実績・実態調査結果の概要
平成6年より3年間に亘って調査を行った乗り物酔い・乗り心地に関する研究実績・実態調査の結果の概要を以下に述べる。
1)医学分野の研究実績・実態
医学分野から発表されている論文、報告、解説の量は非常に多く、本調査を通じて全ての研究を網羅できたとは考えられない。本研究を遂行するにあたって有用であった論文の数はあまり多くはないと言えよう。
乗り物酔いを生理学的見地から総合的に解説した論文として、
・A.J.Benson:Motion Sickness,Vertigo,ed.by Dix MR,Hood JD,
John Wiley。?ons,1984.
国内の多くの研究者の解説を掲載してある雑誌、
JOHNS,Vol.6,No.9.1990.
は非常に有用である。
この他にも参考とすべき論文は多いが、乗り物を設計する立場で書かれたもの、即ち、酔いの発症と外的刺激の関係を量的に評価した論文は見あたらない。なお、乗り物酔い発症の神経機構について論じた論文は比較的多い。乗り物酔いの発症に、心理的影響が強く関与することを指摘した論文(松永)もある。
2)人間工学分野の研究実績・実態
人間工学分野から発表されている論文、報告、解説の量は医学分野に比べて少ない。代表的な著者は、国外ではM.J.Griffin,H.Dupisであるが、船舶のような低周波動揺を扱ったものは非常に少ない。国内では、後藤、神田、三輪等の論文が多い。また、低周波動揺を対象とした論文は国内には比較的多数存在する。
3)工学分野の研究実績・実態
工学分野から発表されている論文、報告の殆どは、システム工学的アプローチによっている。
列車、自動車における乗り心地の研究は比較的多いものの比較的周波数の高い振動現象を扱っているため、また、コリオリ刺激あるいは疑似コリオリ刺激を扱った場合も多いため、本研究の遂行には必ずしも有用とは言えない。但し、本研究において中心的に扱っている生理的影響に関する研究が始められているようである。しかし、心理的影響に関しては、酔いの発症のメカニズムを解明する立場ではなく、内装の豪華さ等による快適さの追求が中心であると思われる。
船舶関連分野からの論文で特筆すべきものは、富の研究、O'Hanlonの研究であろう、富の研究では、工学分野では例を見ない生理学的アプローチをしている。但し、研究の時期が比較的古く、乗り物酔いを「めまい」の範疇で捉えようとしている。また、O'Hanlonの研究成果は、乗り心地評価を量的に扱った唯一の成果とも言えるもので、客船を初めとする船舶の設計に用いられているとのことである。この他にも、実船におけるアンケート調査をベースとした研究等がかなり存在すると思われるが、調査対象となる乗客の母集団としての扱いの問題、船体動揺だけでは扱いきれない環境条件の問題等があり、必ずしも満足できる成果とは言えないところがある。
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